さまざまなアイデアを形にする
世界遺産に登録された宗像・沖ノ島と関連遺産群の南東側にあたる福岡県鞍手郡に有限会社ウエキモールド様があります。同社は1997年に設立し、早くから3次元CAD/CAMシステム「Space-E」にてプラスチック金型の設計に取り組み、マシニングセンターや放電加工機による機械加工と熟練技術者による技を融合して製作する金型は、お客さまから絶大な信頼を寄せられています。2017年12月には開設した新社屋へ移転し、念願であった射出成形機の設置とともに自社製品の開発に力を入れています。
事業拡大はホスピタリティの精神で

代表取締役
松尾 八郎 様
ウエキモールド様の事例を本誌「人とシステム」でご紹介するのは2002年に続いて二回目になります。同社は、昨年末に新社屋へ移転され事業拡大に向けた取り組みを開始しています。主力となるプラスチック金型設計・製作においては、さまざまな経験と蓄積したノウハウが基となり圧倒的な技術力で受注を伸ばしています。その取引先として、以前は自動車関連と弱電関連が中心でしたが、現在は、医療、食品、飲料、建築資材の関係分野へ広がるとともに、メーカーから直接くる依頼が増えています。
さらに、自社製品の開発にも力を入れ、そのひとつに"やわらか湯たんぽ"のお湯の注ぎ口のキャップがあります。水漏れせず熱にも強いこのキャップは、形状設計から金型製作までを一手に担いました。
あくまでも金型を主体として事業を拡大している源泉はどこにあるのか、代表取締役の松尾八郎様に伺いました。

「長年にわたりプラスチック金型一筋に取り組み、おかげさまで受注は口コミで決まります。お客さまから口コミでご紹介いただけるのは、飲食業と同じ経営コンセプトを当社が持っているからだと思います。美味しければ来てくれるし、知り合いも連れてきてくれます。どうしても食べたいときは行列に並んでくれます。我々の製造業も同じで必ず結果を出すことです。これまで、数多くの失敗を経験して、そのたびに改善案を見つけ出し対応してきました。そして、いつもホスピタリティの精神で取り組み人間関係を大切にしてきたことが、取引先の拡大や自社製品の開発につながったのではと思います」
また、同社は他社との連携にも力を入れています。受注量と納期によっては韓国や中国の金型メーカーに外注するようになりました。その上、これまで交流がなかった国内の金型メーカーとの協業も進めています。このように技術交流も含めて、いろいろなメーカーとのお付き合いを大切にしています。その他にも新たな発見につながる異業種交流会に参加して、人との輪を広げています。
金型設計の中核を担うSpace-E

設計部長
落合 栄章 様
設計部長の落合栄章様は「金型の出来不出来を左右するのは設計力であり、その中核はCAD/CAMです」と言い切ります。そこで活用しているのが1999年に導入した3次元CAD/CAM「Space-E」です。現在は5台が稼働しています。
現状を落合部長に伺うと、「他CAD/CAMメーカーからシステム導入の誘いはありますが、Space-Eというひとつのシステムにこだわりを持って使っています。長年使っているということもあり、慣れた操作で作業効率は大幅に向上しています。今では、Space-E以外は考えられません。導入当初は操作を覚えるのが大変でしたが、金型設計に欠かせないツールになっています」と使いやすさを強調されます。
お客さまから支給されるモデルデータの中には、独特の作り方が見受けられる場合があります。それを見極めていち早く補正しなければ設計には入れません。
その対処について落合部長は、「Space-Eを使い慣れているので、補正が必要なモデルに対して、この操作を行えば対応可能だと素早く判断して対処できます。設計に入る前の作業時間を削減できることもSpace-Eを使っている大きな利点です。このような対応は経験を積むことが必要です。マニュアルやトレーニングだけでは習得できないため、このノウハウを共有しています」と説明します。
設計部では、設計作業の効率化の取り組みとして、Space-Eのカタログパネルを活用しています。過去に設計したパーツを登録することで、アセンブリでモデル内に配置できます。使い勝手を考慮したカタログパネルにアレンジして作業の効率化を図ります。
また、過去の設計データは全部保管しています。特にトラブルを蓄積していくことが重要だと落合部長は話します。「これまでに蓄積した大量な設計データの中から、類似形状を探し出して参照できるようにし、不具合の予兆となりそうな問題点を把握しながら設計することが、手戻りを防ぐのに大いに役立っています。そのときの苦労が生かされ、次は自信を持って対応できます」このように、過去の知見を生かすことで設計者のスキルアップにもつながっています。
現場は完全に3Dデータを主流として動いています。図面で全部を表現することより、3Dデータを渡せばものが分かるという利点があるからです。3Dデータをしっかり作る上でもSpace-Eは活躍しています。その3Dデータは、3Dプリンターで試作品を作るときにも利用されています。



リバースエンジニアリングの取り組み
金型のメンテナンスや修理は、的確に行わなければかえって状態が悪くなります。それを確実に修理できる技術を持っているウエキモールド様は、いろいろなお客さまからの信頼を得ています。まずは、金型のメンテナンスから請け負い、その技術力が認められて新型の受注につながるケースも出てきています。その中には図面が消失し、現物のみ持ち込まれる例もあります。このように、リバースエンジニアリングの顧客ニーズが高まる中、Manufacturing-Spaceにあるリバースエンジニアリングサービスのオートサーフェスについて落合部長にその可能性を伺いました。「オートサーフェスについては、まだ検証段階です。STLデータからIGESデータにクラウドのサーバー側で自動変換してくれるので、Space-Eに取り込めば編集もできます。これまで手作業で対応してきたものを自動でデータ化できる環境は期待できます」


5軸加工の魅力とは
ウエキモールド様は、2005年には5軸マシニングセンターをいち早く導入し、Space-E/5Axisで加工データの作成に取り組みました。そのときの経験を松尾社長は「現在、5軸マシニングセンターは工場から出してしまいましたが、当時、他社に先駆けて最先端技術に取り組もうと、海外メーカーの5軸マシニングセンターを導入しました。当社のオペレーターは優秀だったのですが機械が思うように動きませんでした。その経験が横形(4軸)のマシニングセンターの加工データ作成に生かされています」と振り返ります。5軸加工のメリットを理解している同社は、将来的には5軸マシニングセンターの再購入を考えています。
「5軸の魅力は加工時間の短縮です。例えばピラミッドの形状を削る場合、普通の3軸であればボールカッターの等高線加工で削っていきます。5軸であれば大きく荒取りして、エンドミルの側面で1回の切削で終わります。当社の技術者でしたら横を傾けて5軸で削ることは難なくできます。なおかつ無人化できるという意味でも期待できます」と松尾社長は5軸の魅力と技術力を語ります。
試作と自社製品に射出成形機を活用
新社屋を開設する大きな目的は、射出成形機の導入でした。これまで、2200トンまでの成形は近隣の成形メーカーに依頼し、それ以上になると別の成形メーカーに依頼していました。自社で射出成形機を持つことで、成形するために金型を移動させる手間やコスト、日程を省けるようになりました。その上、金型の完成後は社内ですぐに試作成形することで、仮に不具合が見つかってもその場で対応でき、金型の精度向上、納期短縮に大きく貢献しています。
また、量産についても特殊なものや自社製品の成形を行う予定です。
センスある金型づくりを目指して
創業当初は熟練者ばかりでしたが、若い社員も増えて人材育成にも積極的に取り組むという松尾社長は、「金型の仕事は簡単に覚えられるものではありません。知恵や工夫が必要であり経験やセンスが重要です。失敗を乗り越えながらどうやってそれぞれの引き出しを多くしていけるか、その環境を作ることも当社の未来につながります。特に設計は自動化ができないので、人材を増やしてその能力をアップしていくには、海外の人材にも目を向ける必要があります。」と話します。現在、優秀なベトナム人に対して金型設計の教育をしているそうです。
常に最先端技術を吸収し続けることで、多くのノウハウを蓄積してきた企業姿勢について松尾社長は、語ります。「金型というのは、地道で泥臭い、まじめな仕事です。そこには人の手が不可欠であり、社員一人ひとりのスキルの高さが企業の能力につながります。特に、工程の最初と最後となるSpace-Eによる設計と熟練者の手による最終調整は、センスある人材が不可欠です」
アイデアを形にする自社開発の製品

ライトやビデオカメラを取り付けて首に取り付けて使います
ウエキモールド様が力を入れている新分野に、独自製品の開発があります。これまで、個人や別分野の企業から製品作りの手助けを頼まれて、製品設計から携わり、いくつかのオリジナル商品が生まれました。同社のサイトに【あなたのアイデアを形に!】というページを作成し、協業の呼びかけを開始しました。
そこから問い合わせがあり、この春に商品化されるのが"マルチチョーカー"です。松尾社長によると「夜釣りの時に使うヘッドライトを改良して、首に巻ける製品を作りたいという相談があり、これはおもしろいということで、一緒に事業化することになりました」という経緯でした。発案者はあくまでも一般の方で、簡単なイラストがあるだけでした。それを、落合部長がSpace-Eで3Dデータに起こし、3Dプリンターで見本を出力したところ、それだけで大喜びしたとのことです。「最初はライトだけの予定でしたが、パーツを変えていくことでさまざまな用途が考えられます」と落合部長も目を輝かせます。
松尾社長は「我々は形にするのが仕事です。一般には目に留まることのない金型ですが、この金型がないと製品はできません。我々の金型技術でアイデアを持っている人たちの手助けをしていきたいと思っています。さらに、将来に向けて若い世代が金型ビジネスを続けられるような会社にしていきたい。そのための新たな取り組みだと思っています」と夢を語ります。
ウエキモールド様から新たな製品が次々と生まれようとしています。今後の発展に私たちNDESも最新システムの提供でご協力を続けていきます。
松尾社長は、ソフトバンクグループの創業者である孫正義氏と同級生で小学校時代に机を並べて共に学ばれたそうです。事務所には、ソフトバンクホークスの優勝時にヤフオクドームに招待されたという松尾社長と孫正義氏の笑顔の写真が飾られていました。
会社プロフィール

有限会社 ウエキモールド
URL http://ueki-mold.jp/(外部サイトへ移動します)
所在地 | 福岡県鞍手郡鞍手町大字新北20番地5 |
---|---|
設立 | 1997年5月 |
資本金 | 300万円 |
従業員 | 16名 |
事業内容 | プラスチック金型設計・製作、製品設計 |
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