欠かせないSpace-E
自動車のシリンダーヘッドやトランスミッション、建設機械、油圧機器用のコントロールバルブなどの鋳造部品を得意とする株式会社コヤマ様は、さまざまな産業分野で活躍する鋳造専門メーカーです。また、自社製品としてバリ取り専用の省力化機械「バリンダー」を製造、販売する機械メーカーの一面も持ちます。一貫した生産体制を誇る同社では、早くからSpace-Eの前身であるGRADEを導入して3次元化に取り組み、その後も鋳造シミュレーションを工程に取り入れるなど、効率的な生産体制を作り上げてきました。
鋳造部品の一貫生産

製造部 第一生産技術課 課長
宮川 任臣 様
1945年創業のコヤマ様の発祥は、飛行機向けであったアルミ資材を利用した鍋釜の製造から始まります。その後、自動車産業が発展するとともにトランスミッションなどの自動車部品、建設機械や油圧機器などの鋳造部品を製造してきました。創業74年を迎えるコヤマ様が業界トップを走り続ける原動力の一つが独自の鋳造技術です。企画開発、試作、製造、機械加工、品質管理までを一貫して行う生産体制により、品質はもちろんのこと、お客さまのニーズにお応えする鋳物部品を生み出しています。
この一貫生産こそがコヤマ様の特長であると、製造部第一生産技術課課長の宮川任臣様は話します。「お客さまからいただいた3次元データや図面をもとに型を作り、鋳造し、後処理や機械加工までの一貫生産を社内で行っています。特に金型の内製は、当社の強みの一つになっています。地域性もありますが、中子メーカー、金型メーカーと分業され、それらを発注する鋳造メーカーが多い中、当社は、中子、金型を作る職人技であるノウハウを蓄積しているので内製ができます。この一貫体制できめ細かな対応を行うことで、お客さまからの支持を得ることができています」

ものづくりのデジタル化を推進
コヤマ様の一貫生産の工程でSpace-EとCATIAが活躍しています。長年ご利用いただいているコヤマ様では、Space-Eで作成したデータを鋳造シミュレートしながら解析結果を設計に反映していくことが、デジタル化のノウハウの一つになっているようです。同社の3次元CAD/CAMをはじめとするデジタル化への取り組みは早く、Space-Eの前身であるGRADEを導入したのは1995年、CAEとしてのCATIAの導入は2004年になります。

製造部 第一生産技術課 金型 組長
関 春雄 様
宮川様はデジタル化の取り組みについて、次のように語ります。「最先端技術の取り組みが早い自動車業界は、デジタル化も進んでいました。当社もその影響を受けて中小企業の中では、3次元CAD/CAMやCAEの鋳造シミュレーションの導入といったデジタル化への取り組みは早かったと思います。その取り組みを後押ししたのは、その時々の最先端技術をいち早く導入したいという当社上層部の強い意志もあったからです」
金型の3次元モデルの製作を行うとともに、鋳造現場との連携も担当する製造部第一生産技術課金型組長の関春雄様に、Space-Eの利用状況を伺いました。「お客さまから提供された製品の3次元モデルをもとに加工代 [しろ] や抜き勾配を付け、押湯や湯道など鋳造に必要な部分を設計して鋳造方案を作ります。鋳物モデルは、滑らかさを求める形状が多いので、サーフェイス機能が強いSpace-Eは利便性が高いと思います。例えば、四角から丸に滑らかに変化する形状は、ソリッドで作成すると難しいのですが、Space-Eではサーフェイスで途中に断面を入れることで滑らかに作成できます。その他にも半径を徐々に変えて面を作成する徐変Rや、ぼかし面としてRとRが重なった部分の作成など、鋳物モデルでは欠かせない形状をSpace-Eで作ることができます。また、図面をもとに3次元モデルをソリッドで作成すると問題が発生する場合でも、Space-Eのサーフェイスであればうまく作成できます」
コマンドの操作性の高さ、充実したサーフェイス機能は、GRADEから継承したもので後継のSpace-Eでも生かされています。
造形方案と試作で活躍するSpace-E
樹脂用、砂型用の3Dプリンターで利用するSTLデータを作成するときもSpace-Eは活躍しています。
構想設計の鋳造方案の段階で樹脂積層タイプの3Dプリンターを使って型割り検討用の見本を造形することがあります。中子の形状が複雑で型が作りづらく、型構造が難しい場合、3Dプリンターの造形物を利用することで早く検討ができています。
また、砂型造形用の専用3Dプリンターを使って砂型を作り、試作品を鋳造することもあります。特に複雑な部品になるほど、砂型を3Dプリンターで直接作ることで、大幅なリードタイムの短縮とコストの削減につながっています。
砂型用3DプリンターのSTLデータについて、関様は次のように話します。「STLデータと3Dプリンターがあれば型レスの鋳造ができます。3Dプリンターからダイレクトで砂型を造形して材料を流し込み、試作品を製作します。そういうニーズが多くなってきました。もちろん、3Dプリンターで造形する砂型の形状もSpace-Eで作ってSTLデータにして、修正があればSpace-Eで行います。そのデータを量産で活用するだけでなく、量産を見越した形状で試作できるところも利点です」


人材育成に向けた
形式化と標準化を目指して
データ集約による標準化は人材育成に重要だと宮川様は話します。「作業の標準化に向けて、Space-Eなども含めてデータを蓄積しています。なるべく記録に残すことで、今後の人材育成に生かすことができます。当然、デジタル化を行うためのスキルも必要になるので、3次元CADの習熟だけでなく、ものづくりの考え方や技術の習得にも注力していきます」
関様は、経験と勘を形式化するためにデータの蓄積が必要だと話します。「経験が重要になる例をあげると、幅木の設計があります。鋳型には中子と主型を組み合わせる幅木という部分があり、おのおののクリアランスや大きさなどを設計するには、長年の経験が必要です。このようなノウハウを蓄積したいと考えています」
熟練者が見いだしてきた経験則を基礎的な数式に表すことができれば誰でも再現できます。より実践的な製作技術の習得がOJT以外でも可能になります。その意味でも、ものづくりの現場のデジタル化には大きな可能性があると言えるでしょう。
数多く蓄積しているデータの中には、過去のトラブルや不具合についての写真や資料のデジタルデータがあり、それらを有効活用できていないと宮川様は話します。「不具合の資料はデータとして蓄積していますが、その件に関わった人が引き出せるだけで、他の人がタイムリーに参照できていない状態です。その事例を誰もが検索できれば、同じような不具合を回避できます」
そこでNDESから、Manufacturing-Spaceのデータコンシェルジュに登録したCADデータから類似形状をモデルの特徴点で検索できる3D類似形状検索サービスの利用をご提案しました。AIを使ったCADデータ検索の効率化によって、蓄積したデータを有効活用できます。
型の内製化と職場環境の改善

さらに一歩進めて、宮川様はお客さまへの提案も強化していきたいと言います。「お客さまからご提供いただいたモデルに対して、量産に適した形状に変更することがあります。そのとき、当社にて強度計算まで行った上で形状の変更をご提案できれば、お客さまの開発期間の短縮にご協力できるのではと考えています。コンカレント・エンジニアリングの取り組みは当たり前になってきているので、今後は一歩踏み込んだご提案をしていきたいと考えています。そのためにも、型の内製化率の向上を考えていますが、マンパワーには限りがあるため、外部の協力会社との連携は欠かせません。内製化に関しては、難易度の高い金型製作について当社の能力向上を図るためにも取り組んでいきます」
コヤマ様は、その時々の先進設備の投資や、工場内の環境整備、地域環境への対応を行ってきました。最近も、川中島工場の一部を改築して耐震性能を高め、最新機器に入れ替えて、より一層の生産能力向上と環境改善を図っています。工場は一般的なオフィスと同じように、ちり一つ落ちていない職場環境を目指して3Kのイメージを払拭しています。
さらにIT化も推進していく中で人材採用について宮川様は、「工場へのIoTやAIの導入を急がなければ、いわゆる第四次産業革命にも乗り遅れるでしょう。IT分野に精通している人材が工場の中で活躍する機会が増えています」とITの人材が集まってほしいと話します。
また、今なお最新技術で解明していく余地が多い鋳造技術について、面白みを感じる人材を集めたいと宮川様は語ります。「メソポタミア文明の頃から同じ作り方で鋳造は行われていると聞きます。それでも、鋳造にはブラックボックスがあり、いまだに研究が続いています。ある程度はCAEで可視化できても、砂型の中に流した1000度以上の鉄の状態を見ることはできません。この鋳造技術を用いて自分で設計して形になって出荷される、この面白みを一緒に感じてほしいと思います」
NDESへの期待
NDESへの期待は高まっています。「サービス体制がしっかりしているので信頼しています。レスポンスもよく対応してくれるNDESには今後も協力をお願いします。製品についても、さらなる機能向上や、技術開発にも期待しています」と宮川様は話します。
NDESへのコメントを関様からもいただきました。「国産のソフトウエアであるSpace-Eの良さを、前面に出してSpace-Eならではの強みを発揮してほしいと思います。インターフェースが日本人にフレンドリーで、使いやすいところが気に入っています。また、新しいソリューションなどにも期待しています」
お客さまに満足いただけるように切磋琢磨を続けるコヤマ様の一助となりますよう、私たちNDESも尽力いたします。
このたびの取材は、エイチ・ゼット・エス長野株式会社代表取締役 太田満様にもご協力いただきました。
会社プロフィール

株式会社コヤマ
URL https://www.koyama-nagano.co.jp/
(外部サイトへ移動します)
本社・川中島工場 | 長野県長野市川中島町原1111 |
---|---|
須坂工場 | 長野県須坂市大字日滝字虫送3500-1 |
創業 | 1945年10月 |
設立 | 1946年10月 |
資本金 | 9,800万円 |
社員数 | 600名 |
事業内容 | 鋳造品の一貫生産、省力化マシン「バリンダー」の製造・販売 |

自社開発の省力化マシン「バリンダー」
鋳造メーカーならではの着想と技術で「バリ取り」工程に革命をもたらしたといわれる「バリンダー」。NC加工技術を組み込み、2種類の刃物を同時に稼働することで精密で高速なバリ取りを実現しています。1972年の開発以降、世界9カ国で特許を取得する工業機械として、世界35カ国にもおよぶ多くの企業に提供しています。
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