大きく広げるSpace-E
栃木県栃木市の南部に位置する藤岡町は、北関東工業地域の一部でありながら、篠山貝塚や渡良瀬遊水地を有する歴史や自然に富んだ地域でもあります。1972年の創業以来、藤岡の地で鋳造一筋に取り組んできた有限会社上岡軽合金鋳造所様は、難易度の高い大物のアルミ鋳物を得意とする国内でも数少ないアルミ砂型鋳造会社です。2018年末、フルモールド鋳造に用いる発泡スチロール模型の内製化を目的にSpace-Eと工作機械を導入して、さらなる発展を目指す同社にお話を伺いました。
強みは大物のフルモールド鋳造
上岡軽合金鋳造所様では、自動車の内装シートプレス型や、検査治具、建設機械、ロボット、船舶などの構造部品から、ビジネスホテルのユニットバスや冷蔵庫の筐体といった真空成形型、街路灯やベンチなどの景観品や装飾品、工芸品に至るまで、幅広い分野におけるアルミ鋳物を製造しています。製品の最大サイズは3,700×2,100×2,100mm、最大重量は1,500kgまでの大物に対応できることが大きな強みです。
その中核を担っているのが、鋳造技術の経験を積んでいる若い職人たちと、フルモールド鋳造のノウハウです。フルモールド鋳造では木型の代わりに、発泡スチロール(以下、発泡材)で作った模型(以下、発泡型)を砂に埋め込み、そこに溶解したアルミを流し込むことで発泡型を気化させながら鋳造します。
会社の強みであるフルモールド鋳造について、代表取締役の上岡勉様に伺いました。
「当社は、大物のアルミ鋳物に対応できる設備を揃えています。先ほど工場で見ていただいた製品は1,000kgになります。これまで製造した検査治具の中には重量が1,200kgあるものもありました。型についても昔の自動車内装の大物は、半分ずつ作って貼り合わせていましたが、今では一体化されたことで型が大きくなり、2,500mmのサイズが主流です。さらに当社は、配管を入れる鋳包み(いぐるみ)に特化した技術を持っていることも強みと言えます。この鋳包みとアルミのフルモールド鋳造の技術で、これだけの大物を手掛けられる会社は数少ないでしょう。また、同業者に敬遠されがちな単品の鋳物でも、当社では依頼を受けてきました。それがノウハウを蓄積することにつながり、今も単品の鋳物の仕事が集まってきています」
きっかけはモデルレス時代への対応
1980年代前半に、各自動車メーカーにより3次元データを活用する取り組みが始められると、数年後にはモデルレスの時代がやってくると言われていました。そうなると、木型を用いた型製作の手法が衰退していくことになるので、同社はすぐにその対策の検討を始めました。当時のフルモールド鋳造の活用について上岡勉様は、次のように話します。
「既に鉄のプレス金型がフルモールド鋳造で製造されていたことを参考にし、内装シートプレス金型にも適用してみようと金型メーカー様と取り組みました。当時、試験的な依頼を受け、発泡型で鋳物を作って納品したところ問題なく使っていただけたので、発泡型に手ごたえを感じました。この内装シートプレス金型の分野では、当社が日本で最初にフルモールド鋳造を手掛けたと言ってもいいでしょう」
内装シートプレス金型とは、車内の足元にあるシートをプレスする金型です。表は絨毯のシートで裏面は合成樹脂のような素材で、それに熱を加え加圧して自動車の内装形状に成形します。この内装シートプレス金型は、自動車の組立ラインが自動化された頃から需要が始まり、金型の冷却にはフレキシブルパイプを通して一気に冷却まで行える同社の鋳包みの技術が生かされています。
発泡型の自社製作にSpace-Eを活用
2018年12月、同社はSpace-Eと工作機械を導入するとともに第2工場を本社工場の近隣に増設し、発泡型の内製化を開始しました。
発泡型の製作を担当する専務取締役の上岡和喜様は、Space-Eの導入について、「Space-Eを使っている同業者からの紹介がきっかけです。他社のCAD/CAMと比較をしたところ、分かりやすい、使いやすいという操作性の良さが決め手となりSpace-Eを導入しました。最初はNDESのSpace-E講習会に参加して、その後に紹介を受けた同業者の下で3カ月間学び、発泡型に必要な操作を習得しました」と振り返ります。
発泡型の製作工程は、まずお客さまから支給された原型の3次元データをSpace-Eに取り込みます。データの調整や追加設計をした後、NCデータを作成し、工作機械で発泡材の塊を削り出して型に起こしていきます。同社は、3次元データさえあれば、発泡型の製作から最終製品の鋳造まで一貫したフルモールド鋳造ができる体制が整っています。
発泡型の自社製作を実現した上岡和喜様は、お客さまへ提案できるようになった利点を挙げます。
「Space-Eの導入前にも、お客さまから3次元データの支給があると発泡型を外注していたので、壊れやすい発泡材は梱包や輸送に手間がかかっていました。また、発泡型に不具合があったり、型数が多かったりすると外注先のスケジュールに合わせることになり、納期が読めなくなっていましたが、Space-Eを導入することでその課題は解決できています。3次元データが支給されると、すぐに発泡型の製作に入ることで、お客さまには、納期短縮の提案ができるようになりました」
Space-E導入の要因には、木型職人の減少もあります。近隣の木型屋における職人の大半は70歳代を占めているという危機感から、同社もCAD/CAMの導入を決めたといいます。
鋳造のノウハウをSpace-Eに反映
鋳物独自のノウハウをSpace-Eに反映できるようになり、上岡和喜様はその効果を次のように話します。
「Space-Eを導入したことで、図面通りに作成する金型は過剰な精度であり、そこまで高精度にする必要がないことが分かりました。鋳造では、効率よく鋳物を固めるために冷やし金という金属を型の上に貼り合わせます。その冷やし金がボコボコと出っ張るため、精度良く発泡型を削る必要がないのです。CAD/CAMの知識を得たことで、お客さまから図面通りでという指示をいただいても、過剰な高精度であることを説明できます。それによって、短納期で低コストになることを提案できますので、お客さまに喜ばれています」
また、フルモールド鋳造は軽量化するという目的もあり、見積もりについては従来のキロ単価ではなく時間での成果となります。フルモールド鋳造のノウハウに発泡型のノウハウが加わったことで、今後の業務展開において新たな可能性へとつながっているようです。
現場との連携でミスを防止
原型の3次元データを元に発泡型用モデルの編集をSpace-Eで行うとき、現場と連携して進めていると上岡和喜様は話します。
「Space-Eで3次元モデルデータを編集する段階から、現場と相談することで、現場での作業がやりやすくなりました。また、発泡型に干渉する部分があったり、発泡型が欠けたりしても、現場で砂型をちょっとなぞったり、彫ったりする対応ができているので、本来作りたかった鋳物の品質で製造しています。このような不良の発生をお客さまの納品前に防げるようになりました」
CAD/CAMと現場の修正技術の連携が、お客さまへの納期を守ることにつながっています。
発泡型のメリットで新たなステージに
発泡型について上岡和喜様は多くのメリットがあると説明します。
「発泡型のメリットは、木型より材料が低価格であり短納期で作成できることです。従来の木型を使った鋳造は、基本的に中子を用いて空間を抜きますが、木型では抜けない複雑な形状を、原型の発泡型であれば抜くことができます。また、単品の鋳物のように1個作ればいいものは、木型を起こすよりも発泡スチロールの方が利便性は優れています。繰り返し使える木型は、保管場所の確保やメンテナンスが必要ですが、発泡型はSpace-Eで3次元データを保存しておけば、必要に応じて同じ物をすぐに製造することができます」
同社は、Space-Eと工作機械を導入したことで、金型メーカーや加工メーカーから発泡型のみの製作を依頼されるようになりました。その発泡型は、ステンレスの鋳物になったり、樹脂型に使われたりしています。新たにケミカルウッドの要望もあり、発泡型をベースに同社は次のステージに進んでいます。
フルモールド鋳造を目指した
職人の育成
順調な業績の一方で、課題もありました。優れた職人の高齢化です。上岡勉様は、職人不足とシステム導入の関係をこう話します。
「実は、20年前くらいからCAD/CAMと工作機械を導入したいと思っていましたが、職人の世代交代による人材不足でちゅうちょしていました。当時、CAD/CAMを導入しても、従来の鋳物用の型を発泡材で作るだけになり、原型を使った本来のフルモールド鋳造で作ることはできないと判断しました。鋳造には、上型と下型を分ける見切りのノウハウなどの職人の技がなければ成り立たないのです。そこで、まず職人の育成に取り組みました。すぐに辞めていく若い職人もいましたが、努力を重ねてきた若手を5年ほどかけて育てていき、納得できる技術に達したので、発泡型の内製化を決断しました」
上岡和喜様も同社の職人には特長があると言います。「原型から鋳物にする方法は何通りもありますが、どの方法で作っても同じ物が作れます。その中から最も効率的な方法を考えて実現させることが、職人には求められています。特に原型の内装シートプレス型には、これに特化した独自のノウハウがあり、当社だからできる技術です。1人で担当する単品ものについても、各工程を全て理解して効率良く鋳造する技術を備えています」
中核となる人材を育てるために要した時間は決して短くはありませんでしたが、それこそが未来の上岡軽合金鋳造所を支える人材育成方法だったのです。職人の育成の先にあるSpace-Eと工作機械の導入は、相互に連携することでさらなる発展につながりました。
今後に向けて
仕事の幅が広がり始めているので、Space-Eの担当者を新たに採用したいという上岡和喜様は、「Space-Eであれば、CAD/CAMの初心者でも分かりやすい操作なので、鋳造の経験者であれば即戦力になると思います」とSpace-Eの増設も検討されています。
上岡和喜様にNDESの印象を伺いました。「Space-Eそのものだけでなく、情報提供やサポートなどのNDESの対応は良かったと思います。コールセンターには、導入後の1~2カ月間は毎日電話しているときもありました。切羽詰まったときに問い合わせをする場合が多かったので、気軽に電話ができて親身に話を聞いてもらえたので満足しています。また、お客さまからの要望で、これまで支給されていた3次元データの作成から携わってほしいとの話もあります。そうなるとリブやフランジなどの金型設計を行うようになりますので、NDESのサポートに期待しています。引き続き情報提供とサポートをお願いします」
自らの独自性について「同業者でもやっているだろうと思っていた鋳造の技術が独自のノウハウだと気付きました。そのノウハウは、仕事の依頼を地道に受けていたことで蓄積できたのです」と淡々と話す上岡勉様を中心に上岡軽合金鋳造所様は発展を続けています。今後も、その独自性をさらに伸ばされますよう、私たちNDESがお手伝いできれば幸いです。
会社プロフィール
有限会社上岡軽合金鋳造所
URL http://www.kac-kamioka.co.jp/(外部サイトへ移動します)
本社 | 栃木県栃木市藤岡町太田818 |
---|---|
第2工場 | 栃木県栃木市岩船町新里638-1 |
創業 | 1972年10月9日 |
資本金 | 300万円 |
社員数 | 19名 |
事業内容 | アルミ鋳造製品の製造及び加工 |
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