冷却穴の設計不具合を削減
金型専門メーカーのマルスン駿河グループで唯一樹脂成形金型を専門分野とする株式会社駿河エンジニアリング様は、長年にわたって金型設計にSpace-Eを利用しています。2021年度の同グループ内のQC活動で設計における冷却穴の不具合の削減に取り組む際、Space-E/Moldのユーザー部品カタログの見直しを行いました。その結果、冷却穴の不具合の削減と設計の効率化を実現することができ、同グループ内のQC活動で社長賞を受賞しました。
POINT |
---|
1. Space-Eのユーザー部品カタログの精査で設計不具合を削減 |
2. 設計以外の工程もSpace-Eを中心に3次元化への取り組みを促進 |
マルスン駿河グループで社長賞を受賞した
冷却穴の不具合削減のQC活動
毎年実施されるマルスン駿河グループのQC事例発表会は、2021年度で34回目を迎えました。駿河エンジニアリング様では少人数で8サークルを結成し、3月からスタートして8月に社内発表会を行い2サークルを選抜しました。その一つが冷却穴の不具合の削減をテーマにした設計技術グループのサークルです。 富士市に拠点を置く4社のグループ会社から選抜された計7サークルが10月の事例発表会へ進み、設計技術グループのサークルが社長賞を受賞しました。
QC活動のテーマについて設計技術グループ課長の古屋英一様は、「私たちの部署では年間を通して行っている業務改善があり、その中から設計不具合の削減として冷却穴を今回のQC活動のテーマに選びました。いかに金型を早く均一に冷やすかが成形品の品質に大きく関わるため、成形不具合のソリ、変形、フローマーク、ショートショットが発生しないように冷却穴の配置はミリ単位で調整しています。また、冷却回路は生産性を高める役割もあります。効率よく冷却できる金型であれば、成形サイクルの1ショットにかかる時間を短縮できます。さらに、お客さまのニーズも冷却に関して要求が高くなっています」と重要性を説明します。
今回のQC活動のリーダーである設計技術グループ係長の佐野智和様は、冷却穴の難しさについて次のように話します。「金型の冷却穴は部品と干渉することが多く、これまで何度かテーマの候補に挙がっていました。過去5年間に起きた冷却穴の不具合のうち干渉が77%を占めています。干渉以外に1~2ミリの距離でかわしているところも見直しが必要です。経年劣化で鉄の腐食から水漏れが発生することがあり、ある程度の余肉を残しつつ設計することはとても難しく設計経験の差が出るところです。そこで、冷却穴の干渉とクリアランス不足を確実に検知して不具合をなくそうとSpace-Eによる3次元設計に取り組みました」
3次元設計と冷却穴の干渉への取り組み
特に力を入れたのは、Space-E/Moldの部品カタログと干渉チェック機能を利用した3次元設計の促進だと古屋様は言います。「当社の設計は3次元と2次元が混在しているので干渉の確認に漏れが出やすい状況でした。混在している要因は、2次元の方が作業のレスポンスがよく、規格データも配置が簡単で作図工数を短くできるということ、さらに社内の後工程への展開やお客さまへの図面提供があることなどから、部分的な3次元化にとどまっていたためです。そこで干渉などのミス削減、工数低減、効率アップを目指して取り組んだのが、Space-E/Moldの機能である部品カタログの見直しでした。設計部門の全員が部品カタログに登録したユニット部品を使って3次元設計を行い、Space-Eで干渉チェックすることで設計のトータル的な工数削減につながります」
佐野様は、以前から取り組んでいた3次元設計の見直しとQC活動との連携を説明します。「2006年にCAD/CAMシステムをGRADEからSpace-Eに置き換えた際、3次元設計を目指して部品カタログが整備されました。それから15年以上経過して、業務改善の一環として部品カタログの見直しが始まっていたので、今回のQC活動と連携させることで冷却穴の課題も解決できると確信しました」
自社の設計思想に合わせた
ユニット部品を目指して
同社では、ガイドピンやエジェクタピンなどの単体の部品と、複数部品を独自に組み合わせたユニット部品との合計で1000を超えるアイテムがSpace-E/Moldの部品カタログとして登録されていました。各部品の整理ができず全体の把握ができなくなった部品カタログの見直しについて、設計技術グループ係長の小川淳樹様は次のように説明します。「部品カタログは以前から作っていましたが、使いたい部品が揃っていない、使いづらい部品があるなど、いろいろな意見がありました。さらに単品で登録されている標準部品は、組み合わせて配置するため手数が多く工数の増加が課題でした。そこで、全員が共有できるユニット部品への見直しを行い、特にQC活動で使用したいユニット部品をピックアップして80個ほど作成しました。これらのユニット部品は、一つの部品の寸法を変更すると他の部品も連動して寸法が変更されます。ユニット部品一つでいろいろなパターンに対応できるので、登録部品が少なくなるというメリットがあります。また、これまで既製品の部品はWebで取得した各データをモデル配置した後でサイズ変更をする際に、再度取得し直すか、そのデータ自体の寸法修正をすることがあり、そこに作業ミスが発生することがありました。今回、既製品の部品もユニット部品として寸法を関連付けできたことで、そのような不具合をなくすことができました」
このようなユニット部品を作成する上で、構成する部品同士の連携に苦心されたと話す小川様は「部品同士の寸法を関連付けるには数式を使って設定するのですが、ユニット部品を構成する部品数が多くなると関連箇所も増えるので、そこが難しいところでした。作成の自由度が高いがゆえに当社の設計思想に合わせることに苦労しましたが、理想とする部品を作成することができました」とのことです。
ユニット部品の作成については、情報共有会と名付けた定期的なウェブ会議を通じてNDESも協力させていただきました。「NDESと問題点を共有してサポートしてもらうことで進むことができました。NDESに相談した以上は次回までに進捗を報告したいという励みにもなり、良い方向に向かえました」と佐野様は話します。
今後の取り組みについて小川様は「必要な部品は全て作りたいと思っています。まずは、金型の製品内に収まる主要部品の作成を終わらせて他の部品に入りたいと考えています。Space-Eのユニット部品として作成すると設計上メリットがある部品の充実化を行っていき、既製品との組み合わせも検討しています」と話します。
古屋様も「社内でも加工や組み立て部門では2次元図面が中心で、3次元データの展開はこれからです。部品データの3次元化の先として、全社的な3次元化へ取り組みたいと思っています」と語ります。近年は、顧客からも従来の2次元図面ではなく3次元データでの提出要求が増え、3次元化への加速に注力されているようです。さらに佐野様は「現在の設計標準は2次元図面になっています。部品のユニット化などが進めば設計標準や作業手順書なども3次元化でき、よりわかりやすい3次元データを新人教育や人材育成に活用できます」と期待します。3次元データを使った標準化で技術継承を進めることは、日本のものづくり環境にとっても重要な取り組みと言えるでしょう。
富士の頂を目指すかのように
さらなる高みへ
最先端技術の開発・習得にも熱心な駿河エンジニアリング様では、繊維と樹脂、金属と樹脂といったマルチマテリアルでのハイブリッド成形にも積極的に取り組んでいます。その一つがCNFプラットフォームへの参加です。古屋様は「これは、セルロースナノファイバー(CNF)という植物由来の高強度素材の用途開発、産業創出を図るために地元の富士市が推進している、産学金官などが連携する場です。そこに参加している企業や大学との取り組みでCNFを使った製品成形の開発が増え、当社の金型技術を生かした新規事業の期待もあります」と説明します。
また、マルスン駿河グループの認知度向上にも注力されているとのことです。地元での積極的な研究開発への参加だけでなく、Jリーグの清水エスパルスをクラブパートナーとして応援するなど地域への貢献も続けています。そうした取り組みから新たな人材確保につながることが期待されています。
NDESへのメッセージ
今後のNDESについて伺うと、佐野様から「自動化の支援をもっと進めてほしいと思います。そこから効率化やミス削減につながることを期待しています。Space-Eには、うれしい驚きのあるバージョンアップを待っています。また、設計以外の部署でも3次元データを活用できる環境を目指しているので、ご協力をお願いします」とのコメントをいただきました。
Space-E/Moldの部品カタログの見直しを起点として、不具合の改善、工数低減、効率アップを実現されました。社内での3次元データ活用、新素材活用も含めた新技術への取り組みなど、常に高みを目指す駿河エンジニアリング様に対して私たちNDESもお役に立つように努力を続けます。
会社プロフィール
株式会社 駿河エンジニアリング
設立 | 1966年9月 |
---|---|
資本金 | 69,146,700円 |
所在地 | 静岡県富士市今泉花の木652番地の1 |
従業員数 | 81名 |
営業品目 | インジェクション成形用金型、SMC・BMC用FRP金型、SPM・ISM用金型、コンプレッション用金型、各種樹脂成形用金型 |
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